木を切りたいのに持ち主が分からない ー森林境界の課題

7 min readby FHL

「この山は誰のものか」「どこからどこまでがその人の土地か」が分からなければ、勝手に木を切ることはできません。

相続で所有者が村外へ移り、昔の目印だけでは境界を確認できない山もあります。

森林を地域資源としてきた岡山県西粟倉村への取材から、林業の入口に残る「所有者と境界」の課題を追います。

誰の困りごとか
森林所有者と、森林を管理・施業する事業者
どこでの困りごとか
森林を基幹資源とする岡山県西粟倉村
どんな困りごとか
所有者や境界が不明だと、森林整備へ進みにくい。

【お話を伺った方】

西粟倉村で宿泊・地域事業に携わる事業者。

【前提情報】

西粟倉村では「百年の森林構想」を掲げ、村が森林所有者から山を預かり、間伐や作業道整備などを長期的に進めています。また、森林の土地所有者や境界に関する情報を整理する林地台帳制度も運用しています。

今回はそんな村内の林業や地域事業者とも関わる中で、森林所有者の確認、境界明確化、森林管理の実態について語ってくれました。

インタビュー

木を切る前に、所有者と境界の確認で止まる

Q. 森林管理で最初の壁には何でしょうか。

所有者と境界をはっきりさせることです。

山は、国や自治体だけではなく、個人が持っている場所も昔から多いんですね。「この木からあの木までが〇〇さんのもの」と自然物を目印に境界を決めていたような場所もあり、書類だけを見ても、所有者がはっきりしないことがあるんです。

Q. 所有者に連絡はできるのでしょうか。

できないこともあります。相続が何度も続いて、もともと西粟倉にいた人の子や孫が都市部で暮らしていることがあるんです。

森林の土地を相続や売買で取得した場合は、所有者の届出制度があります。[3] ただ、現場では過去から積み重なった情報を一件ずつ確認する必要があるんです。

「この山を管理したい」と思っても、まず連絡先を探すところから始まります。

Q. 所有者不明の場合、伐採などはできるのでしょうか?

できません。森林所有者自身が伐採する場合も、業者が立木を買って伐採する場合も手続きがあります。

伐採区域の図面や、伐採する権利が確認できる書類が必要です。国土調査が終わっていない場所では、隣接する森林との境界関係を示す書類が必要になる場合もあります。

つまり、林業の機械や人材を用意する前に、土地の権利関係を整理しないと次へ進めないんです。

地図があっても、境界は自動では決まらない

Q. 林地台帳があれば、所有者や境界の問題は解決しないのでしょうか。

林地台帳はかなり重要だと思っています。所有者や森林の情報を一つの窓口で確認しやすくなります。

ただ、村の制度説明にもある通り、台帳を整備しただけで直ちに境界が確定するわけではありません。

書類上の線と、実際の山の中で「ここからここまで」と確認する作業の間に、まだ人の仕事が残っています。

Q. 現地確認にはどのくらいの負担がありますか。

所有者に連絡して、日程を合わせ、現地へ行って確認する。認識が違えば、隣の所有者とも調整します。

取材では、案件によっては数カ月単位で時間がかかることもあると聞きました。境界だけに専任できる人がいるわけではないので、通常の業務と並行して進めることになります。

「調査をすれば終わり」ではなく、連絡、説明、現地確認、合意までが一続きなんです。

Q. 予算を増やせば進むのでしょうか。

お金で調査の量を増やすことはできますが、それだけでは解決しません。最後は、その土地に権利を持つ人との確認が必要になります。

遠方に住んでいたり、相続関係が複雑だったりすれば、単純に人を増やすだけでは短縮できない部分があります。

だからこそ、人にしかできない合意形成と、その前の情報整理を分けて考えた方がいいと思います。

人にしかできない合意形成へ、人を集中させる

Q. デジタル技術で改善できる部分はありそうでしょうか。

あると思います。例えば登記情報、過去の図面、航空写真、現在の地形データなどを重ねて、確認すべき候補を絞ることは考えられます。

所有者への連絡履歴や、現地確認がどこまで終わったかを管理するだけでも、担当者の負担は減らせるかもしれません。

「境界をAIが勝手に決める」というより、人が判断するまでの準備を短くするイメージです。

Q. 西粟倉村では、森林管理の仕組み自体は進んでいますよね。

百年の森林構想があり、村が森林所有者から森林を預かって、10年間を一区切りに管理する仕組みがあります。

森林をまとめて管理できれば、間伐や作業道の整備を効率的に進めやすくなります。だから、その入口となる所有者と境界の確認には大きな意味があります。

西粟倉だけの問題というより、所有者が分散している森林地域で広く起こり得る課題だと思います。

Q. 外部の企業やスタートアップが関わるなら、何を期待しますか。

必要なのは、所有者の合意を飛ばす仕組みではありません。

誰の土地かを探す。情報を整理する。現地確認が必要な場所を絞る。連絡や合意の進捗を残す。こうした前段階を安く、速くできれば、林業の人は森林整備そのものへ時間を使えます。

森林資源を活用する技術は、その山に入れる状態になって初めて使えます。一番最初のボトルネックを軽くすることに、まだ大きな余地があると思います。

今回の課題のまとめ

  • 森林整備は、所有者と境界を確認できないと始めにくい。伐採や施業の前に、権利関係を整理する仕事があります。
  • 林地台帳や地図があっても、境界は自動で確定しない。現地確認と所有者との合意に時間と人手がかかります。
  • 技術の余地は「合意の代替」ではなく、その前工程の短縮。情報整理、所有者探索、現地確認、進捗管理を支える仕組みを検証できます。

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