豊かな肥料を使い切れない。笠岡の消化液問題

牛のふん尿をバイオマス施設へ運び、発電や肥料に利用する。
うまく回るように見える資源循環ですが、岡山県笠岡市の笠岡湾干拓地では、処理後に残る消化液や固形物を「どこで、どう使い切るか」が次の課題になっています。
肥料として価値があっても、運搬の問題、作物や土壌との相性の課題があります。
ふん尿処理の“その先”に残る、物流と利用先のボトルネックを現場からひも解きます。
笠岡の畜産農家と、液肥を使う可能性がある農家
笠岡湾干拓地のふん尿処理と農地利用の現場
資源化しても、利用先と散布方法が不足しています。
【お話を伺った方】
【前提情報】
インタビュー

今回話を聞いたのは、笠岡湾干拓地の畜産とふん尿処理に関わる笠岡市の担当者です。農家の処理方法から、堆肥や液肥の利用先まで、地域全体の資源循環を見ています。
ふん尿は「処理したら終わり」ではない
Q. ふん尿処理での課題について教えてください。
バイオマス施設でふん尿を処理しても、その後に消化液や固形物が残るんですよ。
発電に使えれば終わりではなく、それらをどこで、どう使うかまで決めなければ循環は完結しません。
消化液は肥料として使えますが、使える量には限界があります。
今は畜産側の農地だけでなく、野菜などを作る耕種農家にも使ってもらえないかを考えていますが、そこに別の壁があります。
Q. 消化液は肥料なのに、なぜ利用先を増やしにくいのでしょうか。
そうですね。肥料として成分があることと、農家が実際に使いやすいことは別です。
笠岡ではブロッコリーやキャベツ、タマネギなども作られていますが、作物や土壌条件によって液肥との相性を考えなければなりません。
牧草でも、窒素を過剰に与えると硝酸態窒素が植物中に残る可能性があります。牛が食べる草なら中毒のリスクも考える必要があるので、「余っているから多くまく」という使い方はできません。
Q. そもそも、酪農と肉牛ではふん尿の処理方法も違うのでしょうか。
かなり違います。
酪農では1頭あたりのふん尿量が、1頭から1日約70キロと多いんです。それを毎日回収し、水分を調整しながら乾燥や発酵の工程へ送る方法が中心です。
一方、肉牛ではオガクズなどの敷料の上で飼い、ふん尿を吸わせた後にまとめて牛舎から出します。その後、堆肥舎で切り返しながら空気を入れ、発酵を進めていく方法が一般的です。
Q. 堆肥を作るだけでも、かなり工程があるのですね。
水分量を調整して、空気を送りながら発酵させる必要があります。水分が多すぎると発酵がうまく進まず、酸素の少ない状態になって臭気も強くなります。
酪農では浅い施設で乾燥させた後、より深い槽へ移し、攪拌機で毎日空気を送る方法もあります。こうした工程で40日ほどかかります。

「撒ける肥料」でも、撒くための物流が合わない
Q. 消化液の利用を広げるうえで、特に大きな障壁は何ですか。
散布の方法ですね。
大きな畑なら16〜20トンほど積める車両で一気に運べますが、野菜農家からすると、その大きさと重量が使いにくい場合があります。重い車両が畑へ入れば、土が締まることを気にする農家もいます。
「丁寧に管理してきた土に大型車両を入れたくない」という感覚は、利用する側から見れば自然なことです。
Q. では、車両を小さくすれば解決できるのでしょうか。
2トンほどの小型車両にすれば畑には入りやすくなりますが、今度は運べる量が減ります。
100〜200メートルほどの畑でも、散布しては液肥を取りに戻る作業を何度も繰り返すことになります。
化成肥料なら1ヘクタールを30分ほどで散布できる作業が、液肥では3〜4時間ほどかかる場合があります。資材価格だけでなく、人と機械の時間まで考えなければ普及しません。
Q. 利用者にとっては、安く使える肥料なら魅力があるようにも見えます。
肥料としての価値はありますが、安ければ使うとは限りません。
保管、運搬、散布に手間がかかり、自分の作物や土に合うかまで確認する必要があるからです。
つまり供給側には「使ってほしい液肥」があり、利用側には「今の作業を崩したくない」という事情があります。この間をつなぐ方法がなければ、資源が存在していても循環しません。
Q. 固形物についても、同じような問題がありますか。
バイオマス処理後の固形物は、一度発酵を経験しているため、そのまま同じ条件で再び発酵させにくい面があります。もう一度処理するには、さらに乾いた資材を混ぜるなどして、水分を下げる必要があります。
乾燥させるなら場所や設備が必要で、熱や電力を使えばコストも生じます。バイオマス処理によって一つの問題を解決しても、その先の処理工程がゼロになるわけではありません。
価値のある資源を、使える場所まで届けられるか
Q. この課題は、笠岡湾干拓地ではどのくらいの規模なのでしょうか。
笠岡湾干拓地では1万頭を超える牛が飼われているため、ふん尿は毎日発生します。
市のロードマップでは、2024年に稼働したバイオガス発電所で約4,300頭分が密閉処理されるようになりました。
一方で、発電所へ入らないふん尿も残ります。
さらにバイオマスへ入った分も消化液や固形分として出てくるため、「入口の処理能力」だけでなく「出口の利用能力」も同時に考える必要があります。
Q. 堆肥については、売ること自体が難しいのでしょうか。
堆肥は農家にとって、できれば処理負担を減らしたいものです。
販売できても単価が高いとは限らず、作るためには攪拌や水分調整、設備、敷料、人の作業が必要になります。
鶏ふんの例では、農家から出る段階では非常に安いものでも、袋詰めやペレット化、流通を経てホームセンターでは数百円になります。
価値が上がる工程は農場の外側にもあり、誰が加工や物流を担うかが重要になります。
Q. 外部の企業や起業家が関われるとすれば、どこに余地があると思いますか。
一つは散布の部分です。土を締めにくく、必要量を効率よく運べる機械や、既存の農機と組み合わせられる仕組みがあれば、利用できる農地を広げられる可能性があります。
もう一つは、消化液や固形物を扱いやすい形へ変える技術です。
ただ加工するだけではなく、加工費と運搬費を含めても、使う側にメリットが残る必要があります。
Q. 最終的に、どのような循環ができると理想でしょうか。
畜産農家にとって、ふん尿処理は牛を飼えば必ず発生する仕事です。
一方、耕種農家にとって肥料は必ず必要なので、本来は両者の間に循環できる余地があります。
ただ、物があるだけではつながりません。成分、作物、土壌、散布時期、運搬距離、機械まで条件を合わせて、初めて使える資源になります。「処理する」から「無理なく使い切る」までを地域の仕組みにできればと思います。
今回の課題のまとめ
- 資源化しても「出口」がなければ循環は終わらない。バイオマス処理後にも消化液と固形物が残り、処理能力だけでは資源循環は完結しません。
- 液肥の物流と農作業の条件が合っていない。大型車は土を締め、小型車は往復回数が増えるため、運搬と散布の仕組みに改善余地があります。
- 肥料としての価値と「使いやすさ」が一致しない。成分に価値があっても、作物・土壌・時期が合わなければ使われず、需要側との接続が課題です。
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