移住者は来るのに家がない ー西粟倉村の住宅不足

地方の住まいの課題と聞けば、「空き家はあるのに、移住者が来ない」という状況を思い浮かべるかもしれません。岡山県西粟倉村では、その構図が少し違います。
百年の森林構想やローカルベンチャーの取り組みなどを背景に、全国から村へ移り住む人が増える一方、村は住宅不足を地域課題として挙げています。[1]
借りるのに時間がかかる家、家族構成に合わない家.......。空き家と移住者のミスマッチから生まれる「住みたい人はいるのに、住める場所がない」という課題を現場からひも解きます。
西粟倉村への移住希望者と、人を雇いたい村内事業者
岡山県北東部、人口約1,300人の西粟倉村
移住需要に対して、使える住宅と情報が不足している。
【お話を伺った方】
【前提情報】
宿泊や地域との接点づくりを通じ、若い世代が村へ来るきっかけを増やしたいと考えているそうです。
インタビュー

人が来ないのではなく、「住む家がない」
Q. 西粟倉村では、移住したい人がいても住む家が見つからないことがあるとお聞きしています。
その通りです。「来たい人が住める場所をどう用意するか」が最大の課題です。
西粟倉村内の会社で働きたい、知っている人がいる、何か挑戦してみたい。そういう理由で村に来て、実際に村の人たちに会って、移住を決める移住者は珍しくありません。
しかし、そうやって仕事や人とのつながりができても、最後に住む家がないことに気づく。移住を決めたのに最初の入口で止まってしまうことがあるんです。
Q. 移住者が住める空き家はないのでしょうか。
村内に空き家はあります。でも「今日から借りられる家があること」は別なんです。
村の空き家のうち、「空き家バンク」などのサイトで探せるものは一部だけです。他は「あそこの家が空いたらしい」「知り合いに聞けば貸してくれるかもしれない」といった人づての情報に頼るしかありません。
物件そのものがゼロというより、「使える状態で、貸す意思が確認され、必要な人へ情報が届いている住宅」が少ないんですね。
Q. 移住者の家族構成によっても探しやすさは変わるのでしょうか。
変わりますね。家族で来たい人、単身の人、ペットと暮らしたい人では必要な家が違います。
例えば家族ならある程度の広さが必要ですし、ペット可となれば候補はさらに減ります。村の移住者向け住宅も、基本的に世帯入居を条件とするものがあります。[3]
「空きが一つあるから誰でも住める」というものではなく、需要と物件条件が噛み合うかが重要になります。
空き家があっても、市場に出ているとは限らない
Q. 実際の家探しは、どのように進むのでしょうか。
移住コーディネーターなどが、人力で探していると思います。
「この人が村に来たいと言っているけれど、空いている家はないですか」と聞いて回り、所有者と話をして、貸してもらえるかを確認する。普通の不動産サイトで検索して終わり、という世界ではありません。
小さな村なので、物件情報だけでなく、誰が間に入るかも大きいです。
Q. なぜ「誰が間に入るか」が重要なのでしょうか。
所有者からすれば、大切な家を知らない人にいきなり貸すのは不安ですよね。
「この人なら大丈夫です」と知っている人が説明できると、話が進みやすくなることがあります。逆に、関係がない状態で外から突然来て「貸してください」と言っても難しい場合があります。
住宅情報の不足と、所有者と借り手をつなぐ信頼の不足が重なっています。
Q. 新しい住宅を増やす動きもあるのでしょうか。
あります。村でも移住者向け住宅や、仕事と暮らしを支える住宅を整備しています。民間でも新しい住まいをつくる動きがあります。
村内にはコンテナを活用した住居のような事例もあり、土地そのものがまったくないわけではありません。
一方で、新築だけで需要を埋めるのも簡単ではないので、今ある住宅をどう市場へ出すかと、新しい住宅をどう増やすかの両方が必要だと思います。
住まいがなければ、仕事も若者も呼び込めない
Q. 住宅不足は、村内の雇用にも影響していますか。
かなりつながっていると思います。
村の事業者には、人を雇いたいというニーズがあります。ただ、働く人が村内に住みたいとなったとき、家がなければ採用しづらい。
地域おこし協力隊のように村へ生活拠点を移すことが前提になる制度では、なおさら住宅が必要です。
仕事を増やすことと、住まいを用意することを別々に考えられないんです。
Q. 若い世代との関係づくりという点では、どんな住まいが必要だと思いますか。
いきなり移住する人だけでなく、まずは来てみるという人が増えるといいと思っています。
大学の研修やインターンで数日から数週間滞在して、村で誰かと一緒に課題へ取り組む。そこで面白い人に会ったり、やりたいことが見つかったりして、また戻ってくる。
そういう入口をつくるなら、長期賃貸だけではなく、若者が一定期間滞在できる住まいも必要になります。
Q. 外部の企業やスタートアップが関わるとしたら、どこに余地がありそうでしょうか。
単純な物件掲載サイトだけではなく、その前後まで含めた仕組みには余地があると思います。
潜在的な空き家を見つける。所有者へ意思確認する。改修費を見積もる。管理する。入居希望者の条件と合わせる。さらに、短期滞在から移住まで段階に応じた住宅を用意する。
「家を探す」作業を、地域の人の記憶と人脈だけに頼らず、でも信頼関係は失わずに仕組みにできると、雇用や関係人口の入口まで広げられると思います。
今回の課題のまとめ
- 空き家があっても、すぐ住める住宅とは限らない。市場に出ていない物件があり、移住希望者へ情報が届きにくい状態があります。
- 住宅探しには「情報」と「信頼」の両方が必要。所有者との調整を人力で担うコーディネーターの負担が大きく、仕組み化の余地があります。
- 住宅不足は不動産だけの問題ではない。採用、協力隊、学生PBLなど、人が村に関わる入口を支える地域インフラになっています。
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